物質でもなく心でもない不相應行法について

物質でもなく心でもない不相應行法について

「不相應行法」とは、色法(物質的な現象)にも心法(精神的な現象)にも、どちらにも直接には当てはまらない、24種類の分類のことです。

これらは、物質や心といった実体として存在するものではなく、あくまでも概念です。

五位百法のうちの1つのカテゴリーである不相應行法の24種類について、具体的に説明していきます。

不相應行法の24種類

1.得(とく)

成就という意味です。有情・無情の法(存在)を所有・成就するという働きに基づいて、仮に「得」と名付けます。

「得」とは、何かを獲得する、達成する、実現するという意味。

これは、感情を持つ生命(有情)や感情を持たない自然現象(無情)を含めた、あらゆる存在や現象が、それぞれの性質や法則に従って結果や状態を獲得・成就することを指します。

「得」は具体的なモノを得るというより、むしろ状態の変化や結果の実現そのもののことです。

具体例

2.命根(みょうこん)

第八識(アーラヤ識)の種子が現在の肉体を一定期間維持させる働きがあるという意味で、仮に「命根」と名付けます。

「命根」は、生命が存続するための根源的な力、生命エネルギーのようなものを指します。

仏教、特に唯識思想では、阿頼耶識(アラヤ識)という深層意識に蓄えられたエネルギーが、肉体と精神を結合させ、生命活動を維持すると教えます。

目に見える実体があるわけではなく、生命の根源的な働きのことです。

具体例:

3.衆同分(しゅどうぶん)

同じ種類の似た特徴を持つ生命体(有情)の集まりについて仮に「衆同分」と名付けます。

「衆同分」とは、種やグループといった、同種のものに共通してみられる性質や特徴を指します。

人間であれば人間全体に共通する性質、犬であれば犬全体に共通する性質など、同種のもの同士が共有する特性を捉えます。

これは、個々の生命体を超えた、種全体としての共通性を表したものです。

具体例

4.異生性(いしょうしょう)

聖者とは異なる生まれのことを言います。三界の見惑(迷い)をまだ断ち切っていない生命体について仮につける名称です。

「異生性」とは、悟りを開いた聖者(仏や菩薩など)とは異なる、迷いの中に生きる私たち凡夫の状態を指します。

世界は欲界・色界・無色界の三界に分けられ、私たちはその中で様々な煩悩や迷い(見惑)に囚われています。

「異生性」は、このような迷いの状態にある存在であることを示す、方便的な名称です。

具体例

5.無想定(むそうじょう)

ある種の外道が粗雑な思考を嫌い、心を消滅させようとして修習した厭世心の種子について仮につける名称です。

「無想定」とは、仏教以外の外道と呼ばれる修行者たちが、苦の原因は思考にあると考え、思考そのものを消滅させようと修行によって得られる状態を指します。

これは、一時的に思考活動を停止させるものの、仏教が目指す真の悟りとは異なるとされます。

具体例

6.滅尽定(めつじんじょう)

聖者が修める厭離心の種子について仮につける名称です。

「滅尽定」とは、仏教の聖者(悟りを開いた人々)が実践する、より高度な瞑想状態を指します。

無想定と似ていますが、滅尽定は仏教の正しい修行によって得られるもので、煩悩や苦の根源を断ち、真の解脱へと至るための重要な瞑想とされます。

具体例

7.無想事(むそうじ)

無想定によって無想天に生まれ、六識(眼・耳・鼻・舌・身・意の六つの識)を生じない状態について仮に立てる名称です。

「無想事」とは、無想定の修行を積んだ者が死後に生まれるとされる無想天という世界での状態を指します。

無想天は、三界の中でも色界に属する天上界の一つとされ、そこでは六識(眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識)の働きが完全に停止し、物質的な身体のみが存在すると考えられています。

ただし、これは永続的な解脱ではなく、寿命が尽きれば再び輪廻するとされます。

具体例

8.文身(もんしん)

「ア・イ・ウ」などの単純な音韻のこと。声について仮に立てたものです。

「文身」とは、言語を構成する最小単位である音素のことです。

日本語の「ア」「イ」「ウ」や、英語のアルファベット一つ一つの音など、意味を持たない単独の音を指します。

具体例

9.名身(みょうしん)

「山」「川」などのような物事の本質を表す言葉。これも声について仮に立てたものです。

「名身」とは、具体的な意味を持つ単語です。

「山」「川」「花」「人」など、名詞を中心に、物事や概念を指し示す言葉を指します。

言葉を意味の側面から捉えた概念であり、言葉による認識や思考の基礎となります。文身(音素)が集まって名身(単語)を構成します。

具体例

10.句身(くしん)

「花を見る」「香りを嗅ぐ」など、物事の違いを説明する言語。これも声について仮に立てたものです。

「句身」とは、文章やフレーズなど、複数の単語が組み合わさって、より複雑な意味や区別を表現する言葉のまとまりです。

「花を見る」「香りを嗅ぐ」「空は青い」「鳥がさえずる」など、具体的な情景や行為、状態などを言葉で描写するものを指します。言葉による表現、コミュニケーション、思考を可能にする、より高度な言語単位です。名身(単語)が集まって句身(文章)を構成します。

具体例

11.生(しょう)

物質と心の諸法が生起することについて仮に名付けたものです。

「生」とは、現象が生まれる、発生する、出現するという、変化の始まりの状態を指します。

これは、物質的な現象(色法)だけでなく、精神的な現象(心法)を含むすべての現象に当てはまります。

現象は、原因と条件が揃うことで新たに生じ、その瞬間から変化・消滅のプロセスを開始します。「生」は、この変化の始まり、存在の開始を捉えた概念です。

具体例

12.老(ろう)

物質と心が変化することについて仮に名付けたものです。

「老」とは、現象が変化し、衰える、古くなる、成熟するといった、時間の経過とともに状態が変化していく過程を指します。

生まれてきたものは必ず変化し、永遠に同じ状態を保つことはないという、変化の必然性を表します。

物質的な現象、精神的な現象、両方に当てはまり、成長や成熟も「老」の一つの側面として捉えられます。

具体例

13.住(じゅう)

物質と心の諸法が一時的に存在することについて仮に名付けたものです。

「住」とは、現象が一定期間、その状態を保つ、持続する、存在するという、変化の中での一時的な安定状態を指します。

生まれてから消滅するまでの間、現象は一時的にその状態を維持します。

「住」は、この変化の中の一時的な安定、存在の持続を捉えた概念です。

ただし、この「住」もまた一時的なものであり、永遠に続くものではありません。

具体例

14.無常(むじょう)

物質と心が消滅することについて仮に名付けたものです。

「無常」とは、現象が消滅する、滅びる、無くなるという、変化の終着点を指します。

仏教の根幹をなす思想の一つであり、すべての現象は移ろいゆくものであり、永遠に存在するものは何もないという真理を表します。

物質的な現象、精神的な現象を問わず、すべての存在は無常であり、変化し、消滅する運命にあると説きます。

具体例

15.流転(るてん)

物質と心の諸法が刻々と生滅して、因果関係が途切れないことについて仮に名付けたものです。

「流転」とは、現象が瞬間瞬間に生滅変化し続け、その変化が因果の連鎖として途切れることなく永遠に続く様子を指します。

世界は常に変化しており、静止することはありません。

そして、その変化はランダムではなく、原因があって結果が生じるという因果律に従って、連続的に起こり続けます。「流転」は、この変化の絶え間なさと因果の連続性です。

具体例

16.定異(じょうい)

物質と心の善悪因果が相互に区別されることについて仮に名付けたものです。

「定異」とは、善因(善い行い)と悪因(悪い行い)が、それぞれ異なった、定められた結果(果報)をもたらすという、因果の法則における結果の確実性、区別を強調する概念です。

善い種を蒔けば必ず甘い実がなり、悪い種を蒔けば必ず苦い実がなるように、原因と結果の関係は固定されており、曖昧さや偶然性は存在しないと説きます。

具体例

17.相応(そうおう)

物質と心の諸法が因果に対応することについて仮に名付けたものです。

「相応」とは、原因と結果が、互いに対応し、ふさわしい関係にあることを指します。

原因と結果はバラバラに存在するのではなく、密接に結びつき、釣り合いが取れています。

原因が善であれば、結果も善の性質を持ち、原因が悪であれば、結果も悪の性質を持つように、因果は互いに呼応し合うと考えます。

「相応」は、この因果の調和、適合性を捉えた概念です。

具体例

18.勢速(せいそく)

物質と心の諸法の生滅や変化が速いことについて名付けたものです。

「勢速」とは、現象の生滅変化が非常に速い、勢いがある、瞬く間に過ぎ去る様子を指します。

世界は静止しているように見えても、実際には常に変化しており、その変化は目にも留まらぬ速さで進行しています。

物質的な現象、精神的な現象です。いずれも例外なくこの「勢速」の性質を持ちます。

具体例

19.次第(しだい)

物質と心の諸法に前後の生滅の順序があることについて名付けたものです。

「次第」とは、現象の生滅変化が、無秩序に起こるのではなく、原因、過程、結果といった前後関係、段階的な順序を持っていることを指します。

世界は因果律に基づいており、原因があって結果が生じ、その結果がまた次の原因となるというように、連鎖的な順序を持って変化していきます。

具体例

20.方(ほう)

物質に東西南北上下などの区分があることについて名付けたものです。

「方」とは、空間における位置や、方向を区別することです。

東西南北の四方、上下、前後、左右など、空間的な広がりの中に存在する様々な方向を指します。

これは、物質的な現象(色法)が、空間の中に場所を占め、位置関係を持つことを示す概念です。

具体例

21.時(じ)

物質と心の諸法に時間の制限や区分があることについて名付けたものです。

「時」とは、時間の流れにおける区切りや制限を指します。

過去、現在、未来という時間の流れ、年、月、日、時間、分、秒といった時間単位、瞬間、永遠といった時間的な長さなど、時間を区切り、測定し、認識するための様々な概念が含まれます。

物質的な現象、精神的な現象、いずれも時間の中で変化し、制約を受けることを示します。

具体例

22.数(すう)

物質と心の諸法に二つ、三つなどの数量があることについて名付けたものです。

「数」とは、現象を数量として捉える概念です。

一つ、二つ、多い、少ない、大きい、小さい、重い、軽いなど、量や程度を数値化したり、比較したりするための概念が含まれます。物質的な現象の個数や質量、精神的な現象の程度や頻度など、あらゆる現象は数量として把握することが可能です。

具体例

23.和合性(わごうしょう)

諸法が互いに矛盾しないことについて名付けたものです。

「和合性」とは、様々な現象(諸法)が、互いに矛盾したり、対立したりすることなく、調和し、協力し、共存する性質を指します。

世界は対立や矛盾だけでなく、調和と協調によっても成り立っています。

異なる要素が互いを尊重し、補完し合うことで、全体として安定し、機能を発揮する状態を表します。

具体例

24.不和合(ふわごう)

諸法が互いに矛盾することについて名付けたものです。

「不和合」とは、「和合性」とは逆に、様々な現象(諸法)が、互いに矛盾し、対立し、相容れない性質を指す概念です。世界には調和だけでなく、対立や衝突も存在します。

異なる要素が互いに反発しあい、矛盾し合うことで、不安定さや混乱、対立を生み出す状態を表します。

具体例

まとめ

これら24の不相應行法は、唯識思想における「五位百法」の中の一カテゴリーです。

物質(色法)でも心(心王・心所)ではありませんが、現象世界を理解するために必要な教えです。

これらは独立した実体として存在するのではなく、色法や心法の関係性や変化を説明するための概念となります。