台密(天台密教)において拠り所とする経典は、『大日経(だいにちきょう)』(七巻)、『金剛頂経(こんごうちょうきょう)』(三巻)、『蘇悉地経(そしつじきょう)』(三巻)、『一字頂輪王経(いちじちょうりんのうきょう)』(五巻)、『瑜祗経(ゆぎきょう)』(一巻)の五つを「五部の秘経」とし、これに『菩提心論(ぼだいしんろん)』(一巻)を加えて所依の経典・論書とします。
この五部の秘経を拝読する際の指南書(ガイドブック)となるものが、いわゆる「五大疏(ごだいしょ)」です。すなわち、
1. 大日経義釈 十四巻(一行禅師 撰)
2. 金剛頂経疏 七巻(慈覚大師・円仁 撰)
3. 蘇悉地経疏 七巻(慈覚大師・円仁 撰)
4. 菩提場一字経義釈 五巻(智証大師・円珍 撰)
5. 瑜祗経行法記 三巻(五大院安然 撰)
これら五大疏は、台密を研究する者の座右から決して離すことのできない根本的な注釈書(章疏)です。五部の中でも特に重要な三部の大経(大日経、金剛頂経、蘇悉地経)は、日々繰り返し読んで、その経典の意味に精通するように努める必要があります。
ただし、台密の教相(教理)を学ぼうとする者が、まず初めに紐解くべきは「秘密五小部」です。秘密五小部とは以下の通りです。
- (イ) 菩提心論(一巻 不空 訳)
- (ロ) 大日経指帰(一巻 智龍 または 留宝 著)
- (ハ) 顕演法華儀(三巻 智証大師・円珍 撰)
- (ニ) 秘密即身義(一巻 五大院安然 撰)
- (ホ) 理趣経(一巻 不空 訳)
この五小部のうち、どれでもよいので一、三部の講義を聴き、次に五大院安然の『教時問答』(四巻)および『菩提心義略問答抄』(十巻)などを熟読して、天台宗の教理の根本を知り、その後『曼荼羅抄』などをじっくりと読むのが良いとされています。
以上は、三井寺(園城寺)の敬光阿闍梨(けいこうあじゃり)が記した『遮那業学則(しゃなごうがくそく)』に書かれている内容ですが、密教を学ぶ者の心得となるものと考え、ここに記した次第です。
しかし、天台宗(一家)の密教は前に述べた通り、「一乗教をすべて密教とする」立場ですから、先人たちの注釈書を拝読すれば、『法華経』など一乗教の趣旨もおのずから明らかになります。ですが、それと併せて「円教(『法華経』など)」の聖典も常に読誦しなければならないのです。慈覚大師は『蘇悉地経疏』の中で、
「華嚴維摩法華等の諸大乘教は皆是れ密教なり」
(意訳:『華厳経』『維摩経』『法華経』などのさまざまな大乗仏教の教えは、すべて密教である。)
と明確に判定されています。ですから、天台密教の教相(教理)を研究する者は、やはりこれらの聖典をも常に読み、伝教大師をはじめとする祖師や先徳たちの「円密一致(円教と密教は一致する)」という御精神をよく味わい、東密(真言宗)と異なる理由を明確に理解しなければなりません。「車の両輪、鳥の両翼」のように、遮那(密教)と止観(天台・円教)の二つの修行(両業)を極め、よく語り、よく実践して国の宝となり、ひいては天台宗の運命を宗祖の思し召しの通りに発展させることが、台密を究める者の義務であると考えます。

