六根のうち「意根」の三つの意味

今回は、意根の意味について詳しく取り上げてみます。

意根の三つの解釈

意根には大きく分けて以下の三つの解釈が存在します。

① 前滅の意を意根という場合 (無間滅の意根:等無間縁)

この解釈は、意根を 「前の瞬間に消滅した意識(意)」 と捉えるものです。これは、意識の流れが途切れることなく連続しているという仏教の基本的な考え方に基づいています。

  • 前滅の意 : これは文字通り「前の瞬間に消滅した意識」を指します。仏教では、意識は瞬間ごとに生滅変化するものであり、前の瞬間の意識は消滅し、次の瞬間の意識が生起すると考えます。
  • 意根 = 前の瞬間に消滅した意識: この解釈では、この「前の瞬間に消滅した意識」そのものが「意根」であると捉えます。
  • 無間滅の意根: 「無間滅(むけんめつ)」とは、「間断なく滅する」という意味で、意識が途切れることなく連続して生滅することを強調しています。この場合の意根は、意識の無間な連続性そのものを指し示していると言えます。
  • 等無間縁 (とうむけんえん): これは、因縁生起の法則における「四縁(しえん)」の一つで、「等無間縁」は、意識が連続して生起するための条件を指します。前の瞬間の意識(意根)は、次の瞬間の意識が生じるための「等無間縁」となる、と説明されます。つまり、前の意識が途切れることなく次の意識に「席を譲る」ように、意識の流れを支える縁となるのです。

② 第六・第七・第八の後の三識を意根という場合

この解釈は、意根を 八識の中の特定の三つの識、すなわち第六意識、第七末那識、第八阿頼耶識 を指すものと限定するものです。

  • 第六意識、第七末那識、第八阿頼耶識: これらは八識の中でも、特に意 (manas – 思考、意図) の働きが強いとされる識です。
    • 第六意識 (いしき): 思考、判断、推論など、日常的な意識活動の中心となる識。
    • 第七末那識 (まなしき): 自我意識、我執の根源となる識。常に「私」という意識を持ち、阿頼耶識を対象として自己と誤認する働きをします。
    • 第八阿頼耶識 (あらやしき): すべての現象の種子(カルマ)が蓄積される深層の意識。現象世界の根源であり、他の七識のよりどころとなる識。

③ 第七識を意根という場合 (第六の不共依)

この解釈は、意根を第七末那識そのもの であると特定する最も狭義な解釈であり、唯識思想において非常に重要な位置を占めます。

  • 第七識 = 意根: この解釈では、「意根」という言葉と「第七末那識」をほぼ同義として扱います。
  • 第六の不共依 (だいろくのふきょうえ): 「不共依 (ふきょうえ)」とは、「共通のよりどころではない」という意味です。「第六の不共依」とは、「第六意識(意識)」にとって、他の識とは共有しない、特別なよりどころ であるという意味になります。そして、その「特別なよりどころ」こそが 第七末那識 であるとされます。

なぜ第七識が「第六の不共依」となるのか?

  • 意識の思考・判断の基盤: 第六意識は、思考や判断といった日常的な意識活動の中心ですが、その背後にはより深い意識的な基盤が必要です。それが第七末那識です。第七末那識は、第六意識が思考・判断を行うための 前提となる意識的な枠組み意図性 を提供します。
  • 自我意識の存在: 第七末那識は自我意識の根源であり、常に「私」という意識を抱いています。この自我意識は、第六意識の様々な思考や判断の方向性を決定づける 根本的な動機 となります。例えば、「自分の利益になるように考えよう」「自分が他人より優位に立ちたい」といった思考は、第七末那識に根ざした自我意識から生じます。
  • 阿頼耶識への執着: 第七末那識は、第八阿頼耶識を対象として自己と誤認し、常に執着しています。この執着が、第六意識の活動にも影響を与え、世界や自己を誤って認識する原因となります。

このように、第七末那識は、第六意識の 思考・判断の方向性自我意識誤った認識の根源 として、第六意識にとって 「不共」 すなわち 特殊で欠かせない「よりどころ」 となるのです。そして、この重要な役割を担う第七末那識こそが、狭義の「意根」 であると解釈されます。

まとめ

意根には、その解釈に幅があり、文脈や宗派によって理解が異なります。

  • 広義の意根 (解釈①): 意識の連続性そのもの、または前の瞬間に消滅した意識。
  • 中間の意根 (解釈②): 意の働きが強い特定の識 (第六意識、第七末那識、第八阿頼耶識)。より内面的、根源的な意識を指す。
  • 狭義の意根 (解釈③): 第七末那識そのもの。第六意識の「不共依」であり、自我意識、意図性、誤った認識の根源。唯識思想で最も重要視される解釈。

どの解釈も、意根が意識活動の基盤であり、心の働きを支える重要な要素 であるという点は共通しています。文脈に応じて、どの解釈が適切かを判断する必要があります。

ご提示いただいた三つの解釈は、意根の多層的な側面を表しており、意根という概念の奥深さを示唆しています。

  • URLをコピーしました!
目次