物質でもなく心でもない不相應行法について

「不相應行法」とは、色法(物質的な現象)にも心法(精神的な現象)にも、どちらにも直接には当てはまらない、24種類の分類のことです。

これらは、物質や心といった実体として存在するものではなく、あくまでも概念です。

五位百法のうちの1つのカテゴリーである不相應行法の24種類について、具体的に説明していきます。

不相應行法の24種類

1.得(とく)

成就という意味です。有情・無情の法(存在)を所有・成就するという働きに基づいて、仮に「得」と名付けます。

「得」とは、何かを獲得する、達成する、実現するという意味。

これは、感情を持つ生命(有情)や感情を持たない自然現象(無情)を含めた、あらゆる存在や現象が、それぞれの性質や法則に従って結果や状態を獲得・成就することを指します。

「得」は具体的なモノを得るというより、むしろ状態の変化や結果の実現そのもののことです。

具体例

  • 学業成就: 学生が長年の努力の末に試験に合格し、目標としていた学校への入学を果たすこと。(努力が実を結び、目標を得る状態)
  • 恋愛成就: 二人が様々な困難を乗り越え、ついに結婚に至ること。(関係性が成熟し、一つの成就を迎える状態)
  • 作物の収穫: 農家が種を蒔き、丹精込めて育てた作物を収穫すること。(努力の結果、実りを得る状態)

2.命根(みょうこん)

第八識(アーラヤ識)の種子が現在の肉体を一定期間維持させる働きがあるという意味で、仮に「命根」と名付けます。

「命根」は、生命が存続するための根源的な力、生命エネルギーのようなものを指します。

仏教、特に唯識思想では、阿頼耶識(アラヤ識)という深層意識に蓄えられたエネルギーが、肉体と精神を結合させ、生命活動を維持すると教えます。

目に見える実体があるわけではなく、生命の根源的な働きのことです。

具体例:

  • 植物の根: 植物が根から水分や栄養を吸収し、成長し続ける様子。根が栄養供給源、「命根」は栄養を吸収し生命を維持する働きに例えられます。(生命の根源的な支えとしてのイメージ)
  • 人体と血液: 人体が血液によって酸素や栄養を全身に供給され生命を維持する様子。血液が生命維持の基盤、「命根」は血液循環による生命維持活動全体に例えられます。(生命全体を支えるシステムとしてのイメージ)

3.衆同分(しゅどうぶん)

同じ種類の似た特徴を持つ生命体(有情)の集まりについて仮に「衆同分」と名付けます。

「衆同分」とは、種やグループといった、同種のものに共通してみられる性質や特徴を指します。

人間であれば人間全体に共通する性質、犬であれば犬全体に共通する性質など、同種のもの同士が共有する特性を捉えます。

これは、個々の生命体を超えた、種全体としての共通性を表したものです。

具体例

  • 人間
  • ひまわり

4.異生性(いしょうしょう)

聖者とは異なる生まれのことを言います。三界の見惑(迷い)をまだ断ち切っていない生命体について仮につける名称です。

「異生性」とは、悟りを開いた聖者(仏や菩薩など)とは異なる、迷いの中に生きる私たち凡夫の状態を指します。

世界は欲界・色界・無色界の三界に分けられ、私たちはその中で様々な煩悩や迷い(見惑)に囚われています。

「異生性」は、このような迷いの状態にある存在であることを示す、方便的な名称です。

具体例

  • 煩悩に苦しむ人々: 日常生活で怒り、悲しみ、執着など、様々な煩悩に苦しむ私たち一般の人々。(煩悩から解放されていない状態)
  • 欲望に翻弄される人々: 物欲、食欲、名誉欲など、様々な欲望に振り回され、苦悩する私たち。(欲望をコントロールできない状態)
  • 善悪の判断に迷う人々: 何が善で何が悪か、正しい道はどちらか、と迷い、苦しむ私たち。(真理に目覚めていない状態)
  • 過去の行いに後悔する人々: 過去の自分の言動を後悔し、心が晴れない状態。(過去の業から解放されていない状態)
  • 未来への不安を抱える人々: 将来への漠然とした不安や、死への恐怖を感じる私たち。(未来への恐れから解放されていない状態)

5.無想定(むそうじょう)

ある種の外道が粗雑な思考を嫌い、心を消滅させようとして修習した厭世心の種子について仮につける名称です。

「無想定」とは、仏教以外の外道と呼ばれる修行者たちが、苦の原因は思考にあると考え、思考そのものを消滅させようと修行によって得られる状態を指します。

これは、一時的に思考活動を停止させるものの、仏教が目指す真の悟りとは異なるとされます。

具体例

  • 滝に打たれる修行: 苦行の一種として、滝に打たれて感覚を麻痺させ、思考を停止させようとする修行。(肉体的な苦痛によって意識を変容させようとする試み)
  • 断食修行: 食事を断ち、極限状態に身を置くことで、自我意識を薄め、思考を停止させようとする修行。(生理的な極限状態による意識変容の試み)
  • 瞑想による思考停止: 特定の瞑想技法を用いて、無理やり思考をシャットダウンしようとする瞑想。(意図的な思考抑制の試み)
  • 一点集中による意識の固定: 特定の対象に意識を一点集中させ、他の思考が入り込む余地をなくす瞑想。(意識の焦点を絞り込むことで思考を抑制する試み)
  • 自己暗示による無心状態: 「私は無だ」「何も考えない」といった自己暗示を繰り返し、無理やり無心の状態を作り出そうとする試み。(精神的な操作による意識変容の試み)

6.滅尽定(めつじんじょう)

聖者が修める厭離心の種子について仮につける名称です。

「滅尽定」とは、仏教の聖者(悟りを開いた人々)が実践する、より高度な瞑想状態を指します。

無想定と似ていますが、滅尽定は仏教の正しい修行によって得られるもので、煩悩や苦の根源を断ち、真の解脱へと至るための重要な瞑想とされます。

具体例

  • 釈迦牟尼仏の瞑想: 釈迦が菩提樹の下で悟りを開いたとされる瞑想状態。(究極の悟りに至る瞑想)
  • 阿羅漢の瞑想: 煩悩を滅尽させた阿羅漢(悟りを開いた聖者)が、更なる境地を目指して行う瞑想。(煩悩からの解放を完成させる瞑想)
  • 高僧の入定: 高僧が深い瞑想に入り、数日間飲まず食わずで過ごす状態。(高度な瞑想による生命活動の維持)
  • 禅宗の坐禅: 禅宗で重視される坐禅の中でも、特に深く集中し、無心となる瞑想。(自己の内面を深く探求する瞑想)

7.無想事(むそうじ)

無想定によって無想天に生まれ、六識(眼・耳・鼻・舌・身・意の六つの識)を生じない状態について仮に立てる名称です。

「無想事」とは、無想定の修行を積んだ者が死後に生まれるとされる無想天という世界での状態を指します。

無想天は、三界の中でも色界に属する天上界の一つとされ、そこでは六識(眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識)の働きが完全に停止し、物質的な身体のみが存在すると考えられています。

ただし、これは永続的な解脱ではなく、寿命が尽きれば再び輪廻するとされます。

具体例

  • 無想天の世界: 色も音も香りも味も触感も思考もない、ただ物質的な存在だけが静かに存在する世界。(感覚や意識が停止した世界)

8.文身(もんしん)

「ア・イ・ウ」などの単純な音韻のこと。声について仮に立てたものです。

「文身」とは、言語を構成する最小単位である音素のことです。

日本語の「ア」「イ」「ウ」や、英語のアルファベット一つ一つの音など、意味を持たない単独の音を指します。

具体例

  • 五十音: 日本語の五十音(あいうえお…わをん)の一つ一つの音。(日本語の基本的な音素)
  • アルファベット: 英語のアルファベット(a, b, c, … z)の一つ一つの音。(英語の基本的な音素)
  • 子音と母音: 「カ」という音を構成する子音「k」と母音「a」。(音素の組み合わせによる音節の構成)
  • 発音記号: 国際音声記号(IPA)などで表される、個々の音を区別するための記号。(音素を正確に表記するための手段)
  • 歌のハミング: 歌詞のない歌のハミングにおける「ンー」「フンフン」といった単音。(意味を持たない純粋な音の要素)

9.名身(みょうしん)

「山」「川」などのような物事の本質を表す言葉。これも声について仮に立てたものです。

「名身」とは、具体的な意味を持つ単語です。

「山」「川」「花」「人」など、名詞を中心に、物事や概念を指し示す言葉を指します。

言葉を意味の側面から捉えた概念であり、言葉による認識や思考の基礎となります。文身(音素)が集まって名身(単語)を構成します。

具体例

  • 名詞: 「机」「椅子」「本」「ペン」「空」「海」「太陽」「月」「犬」「猫」など、具体的な物や場所、抽象的な概念を表す言葉。(名詞の種類)
  • 動詞: 「走る」「食べる」「寝る」「考える」「感じる」「笑う」「泣く」など、動作や状態を表す言葉。(動詞の種類)
  • 形容詞: 「美しい」「大きい」「小さい」「赤い」「青い」「優しい」「悲しい」など、性質や状態を表す言葉。(形容詞の種類)
  • 固有名詞: 「富士山」「アマゾン川」「東京」「日本」「太郎」「花子」など、特定の個人や場所を指す言葉。(固有名詞の種類)
  • 抽象名詞: 「愛」「平和」「自由」「幸福」「時間」「空間」「知識」「智慧」など、抽象的な概念を表す言葉。(抽象名詞の種類)

10.句身(くしん)

「花を見る」「香りを嗅ぐ」など、物事の違いを説明する言語。これも声について仮に立てたものです。

「句身」とは、文章やフレーズなど、複数の単語が組み合わさって、より複雑な意味や区別を表現する言葉のまとまりです。

「花を見る」「香りを嗅ぐ」「空は青い」「鳥がさえずる」など、具体的な情景や行為、状態などを言葉で描写するものを指します。言葉による表現、コミュニケーション、思考を可能にする、より高度な言語単位です。名身(単語)が集まって句身(文章)を構成します。

具体例

  • 主語+述語の文: 「私は走る」「鳥は飛ぶ」「花は咲く」「太陽は輝く」「風が吹く」など、基本的な文構造を持つ文章。(シンプルな描写)
  • 形容詞を含む文: 「赤い花が咲く」「青い空が広がる」「優しい風が吹く」「美しい夕焼けを見る」など、情景をより具体的に描写する文章。(詳細な描写)
  • 比喩や表現を含む文: 「月の光が銀色の絨毯のように広がる」「鳥のさえずりが音楽のように聞こえる」など、比喩や修辞法を用いた表現豊かな文章。(文学的な表現)
  • 物語の一節: 「昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。」など、物語や文章の一部。(物語や文章の一部)
  • 会話の一言: 「おはようございます」「ありがとう」「さようなら」「お元気ですか」など、日常会話で用いられる短いフレーズ。(コミュニケーションの基本単位)

11.生(しょう)

物質と心の諸法が生起することについて仮に名付けたものです。

「生」とは、現象が生まれる、発生する、出現するという、変化の始まりの状態を指します。

これは、物質的な現象(色法)だけでなく、精神的な現象(心法)を含むすべての現象に当てはまります。

現象は、原因と条件が揃うことで新たに生じ、その瞬間から変化・消滅のプロセスを開始します。「生」は、この変化の始まり、存在の開始を捉えた概念です。

具体例

  • 種から芽が出る: 土に埋められた種から、新しい芽が生えてくる瞬間。(植物の生命の誕生)
  • 赤ちゃんが生まれる: 母親のお腹の中から、新しい生命が誕生する瞬間。(人間の生命の誕生)
  • 考えが浮かぶ: ふとした瞬間に、新しいアイデアや考えが心に生じる瞬間。(精神的な現象の発生)
  • 感情が湧き起こる: 嬉しい、悲しい、怒り、楽しいなど、様々な感情が心に湧き起こる瞬間。(感情の発生)
  • 音が聞こえる: 耳に音波が伝わり、音として認識される瞬間。(感覚的な現象の発生)
  • 雲ができる: 空気中の水蒸気が凝縮し、雲が発生する瞬間。(自然現象の発生)
  • 星が生まれる: 宇宙空間でガスや塵が集まり、新しい星が誕生する瞬間。(宇宙規模の現象の発生)

12.老(ろう)

物質と心が変化することについて仮に名付けたものです。

「老」とは、現象が変化し、衰える、古くなる、成熟するといった、時間の経過とともに状態が変化していく過程を指します。

生まれてきたものは必ず変化し、永遠に同じ状態を保つことはないという、変化の必然性を表します。

物質的な現象、精神的な現象、両方に当てはまり、成長や成熟も「老」の一つの側面として捉えられます。

具体例

  • 人が年を取る: 生まれたばかりの赤ちゃんが、成長し、年老いていく過程。(生命体の変化)
  • 建物が古くなる: 新築の建物が、時間の経過とともに古くなり、劣化していく過程。(物質の変化)
  • 果物が熟す: 青い果物が、時間が経つにつれて色づき、甘く熟していく過程。(成長と成熟の変化)
  • 考え方が変わる: 子供の頃の考え方から、大人になるにつれて考え方が変化していく過程。(精神的な変化)
  • 技術が進化する: 昔の技術が、新しい発見や改良によって進化していく過程。(技術や文化の変化)
  • 季節が移り変わる: 春、夏、秋、冬と、季節が変化していく過程。(自然界の変化)
  • 星が寿命を迎える: 星がエネルギーを使い果たし、寿命を終える過程。(宇宙規模の現象の変化)

13.住(じゅう)

物質と心の諸法が一時的に存在することについて仮に名付けたものです。

「住」とは、現象が一定期間、その状態を保つ、持続する、存在するという、変化の中での一時的な安定状態を指します。

生まれてから消滅するまでの間、現象は一時的にその状態を維持します。

「住」は、この変化の中の一時的な安定、存在の持続を捉えた概念です。

ただし、この「住」もまた一時的なものであり、永遠に続くものではありません。

具体例

  • 花が咲いている: 咲き始めた花が、しばらくの間、美しい状態を保っている期間。(植物の一時的な状態)
  • 建物が建っている: 完成した建物が、しばらくの間、その場所に存在し続ける期間。(物質的な存在の持続)
  • 考えが持続する: ある考えが、しばらくの間、心の中に留まっている期間。(精神的な状態の持続)
  • 感情が続く: 喜びや悲しみなどの感情が、しばらくの間、心に残り続ける期間。(感情の一時的な持続)
  • 音が響いている: 鐘の音が鳴り響き、しばらくの間、空気に振動が伝わっている期間。(感覚的な現象の持続)
  • 雲が浮かんでいる: 空に浮かんだ雲が、しばらくの間、形を保ちながら漂っている期間。(自然現象の一時的な状態)
  • 星が輝いている: 夜空の星が、長い間、光り輝き続けている期間。(宇宙規模の現象の持続 – 人間スケールでは長く見えるが宇宙時間では一時的)

14.無常(むじょう)

物質と心が消滅することについて仮に名付けたものです。

「無常」とは、現象が消滅する、滅びる、無くなるという、変化の終着点を指します。

仏教の根幹をなす思想の一つであり、すべての現象は移ろいゆくものであり、永遠に存在するものは何もないという真理を表します。

物質的な現象、精神的な現象を問わず、すべての存在は無常であり、変化し、消滅する運命にあると説きます。

具体例

  • 花が枯れる: 美しく咲いていた花が、やがて枯れて、散っていく過程。(植物の消滅)
  • 建物が朽ちる: 頑丈な建物も、長い年月を経て朽ち果て、崩壊していく過程。(物質的な存在の消滅)
  • 考えが消える: 心に浮かんだ考えも、時間が経つと消え去り、忘れてしまうこと。(精神的な現象の消滅)
  • 感情が薄れる: 激しい喜びや悲しみも、時間が経つにつれて薄れていき、消え去ること。(感情の減衰と消滅)
  • 音が消え入る: 響き渡っていた音が、徐々に小さくなり、聞こえなくなること。(感覚的な現象の消滅)
  • 雲が消える: 空に浮かんでいた雲が、形を崩し、消えてなくなること。(自然現象の消滅)
  • 星が寿命を終える: 輝いていた星も、エネルギーを使い果たし、光を失い、消滅すること。(宇宙規模の現象の消滅)

15.流転(るてん)

物質と心の諸法が刻々と生滅して、因果関係が途切れないことについて仮に名付けたものです。

「流転」とは、現象が瞬間瞬間に生滅変化し続け、その変化が因果の連鎖として途切れることなく永遠に続く様子を指します。

世界は常に変化しており、静止することはありません。

そして、その変化はランダムではなく、原因があって結果が生じるという因果律に従って、連続的に起こり続けます。「流転」は、この変化の絶え間なさと因果の連続性です。

具体例

  • 川の流れ: 川の水は常に流れ続け、同じ水は二度とそこには留まらない。しかし、川の流れは途切れることなく続く。(変化の連続性と持続性)
  • 時間の流れ: 時間は常に流れ続け、過去、現在、未来へと絶え間なく変化していく。(時間の一方向性と連続性)
  • 生命のサイクル: 生まれて、成長し、老いて、死ぬという生命のサイクルは、世代を超えて繰り返される。(生命の連続性と変化)
  • 心の流れ: 感情や思考は、次々と移り変わり、途切れることなく意識の流れを形成する。(意識の連続性と変化)
  • 因果の連鎖: ある行動が原因となり、結果を生み、その結果がまた新たな原因となる。因果関係は連鎖し、無限に続く。(因果の連続性)
  • 季節の循環: 春、夏、秋、冬と季節が巡り、毎年同じようなサイクルを繰り返す。(自然現象の循環性と連続性)
  • 宇宙の進化: 宇宙は誕生から膨張を続け、星や銀河が生まれ、変化し続けている。(宇宙規模の変化の連続性)

16.定異(じょうい)

物質と心の善悪因果が相互に区別されることについて仮に名付けたものです。

「定異」とは、善因(善い行い)と悪因(悪い行い)が、それぞれ異なった、定められた結果(果報)をもたらすという、因果の法則における結果の確実性、区別を強調する概念です。

善い種を蒔けば必ず甘い実がなり、悪い種を蒔けば必ず苦い実がなるように、原因と結果の関係は固定されており、曖昧さや偶然性は存在しないと説きます。

具体例

  • 善い行いと善い結果: 困っている人を助ける(善因)と、感謝される、心が満たされる(善果)。(善因善果の例)
  • 悪い行いと悪い結果: 嘘をつく(悪因)と、信用を失う、人間関係が悪化する(悪果)。(悪因悪果の例)
  • 努力と成果: 努力して勉強する(善因)と、試験に合格する、知識が身につく(善果)。(努力と成果の因果関係)
  • 不親切な態度と人間関係の悪化: 人に不親切にする(悪因)と、人が離れていく、孤立する(悪果)。(行動と人間関係の因果関係)
  • 健康的な生活と健康: バランスの取れた食事や運動をする(善因)と、健康を維持できる、病気になりにくい(善果)。(生活習慣と健康の因果関係)
  • 不注意な運転と事故: 不注意な運転をする(悪因)と、事故を起こす、怪我をする(悪果)。(行動と事故の因果関係)
  • 嘘をつき続けると信用を失う: 嘘をつき続ける(悪因)と、周囲からの信用を失い、孤立する(悪果)。(繰り返される悪因と累積的な悪果)

17.相応(そうおう)

物質と心の諸法が因果に対応することについて仮に名付けたものです。

「相応」とは、原因と結果が、互いに対応し、ふさわしい関係にあることを指します。

原因と結果はバラバラに存在するのではなく、密接に結びつき、釣り合いが取れています。

原因が善であれば、結果も善の性質を持ち、原因が悪であれば、結果も悪の性質を持つように、因果は互いに呼応し合うと考えます。

「相応」は、この因果の調和、適合性を捉えた概念です。

具体例

  • 種と芽: リンゴの種(原因)からは、リンゴの芽(結果)が出る。リンゴの種にはリンゴの芽が出る性質が相応している。(原因と結果の性質の類似性)
  • 行為と心の変化: 親切な行為(原因)をすると、心が温かくなる(結果)。親切な行為と心の温かさは相応している。(原因と結果の感情的なつながり)
  • 努力と能力向上: 努力して練習する(原因)と、運動能力が向上する(結果)。努力と能力向上は相応している。(原因と結果の能力的な関連性)
  • 嘘と罪悪感: 嘘をつく(原因)と、罪悪感を感じる(結果)。嘘と罪悪感は相応している。(原因と結果の精神的な不快感のつながり)
  • 太陽と暖かさ: 太陽が照りつける(原因)と、暖かくなる(結果)。太陽の光と暖かさは相応している。(自然現象における因果の適合性)
  • 肥料と成長: 植物に肥料を与える(原因)と、成長が促進される(結果)。肥料と成長は相応している。(原因と結果の促進的な関係)
  • 水と喉の渇き: 水を飲む(原因)と、喉の渇きが潤される(結果)。水と潤いは相応している。(原因と結果の直接的な効果)

18.勢速(せいそく)

物質と心の諸法の生滅や変化が速いことについて名付けたものです。

「勢速」とは、現象の生滅変化が非常に速い、勢いがある、瞬く間に過ぎ去る様子を指します。

世界は静止しているように見えても、実際には常に変化しており、その変化は目にも留まらぬ速さで進行しています。

物質的な現象、精神的な現象です。いずれも例外なくこの「勢速」の性質を持ちます。

具体例

  • 時の流れの速さ: 「光陰矢の如し」というように、時間の流れは非常に速く、あっという間に過ぎ去る。(時間経過の速さ)
  • 思考の移り変わりの速さ: 私たちの思考は、次から次へと瞬く間に浮かび上がり、消えていく。(思考の速度)
  • 感情の移り変わりの速さ: 感情もまた、一瞬にして変化し、次々と異なる感情が湧き起こる。(感情の速度)
  • 炎の燃え盛る様子: 燃え盛る炎は、激しく、速く形を変え、瞬く間に燃え尽きる。(物理的な変化の速さ)
  • 滝の水の流れ: 滝から流れ落ちる水は、勢いよく、速く流れ落ち、瞬く間に下流へと流れ去る。(自然現象の速さ)
  • 流れ星: 夜空を一瞬で駆け抜ける流れ星は、速さと儚さを象徴する。(瞬間的な現象の速さ)
  • 泡の生成と消滅: 水面で泡が瞬時に生成され、すぐに消滅する様子。(生成と消滅の速さ)

19.次第(しだい)

物質と心の諸法に前後の生滅の順序があることについて名付けたものです。

「次第」とは、現象の生滅変化が、無秩序に起こるのではなく、原因、過程、結果といった前後関係、段階的な順序を持っていることを指します。

世界は因果律に基づいており、原因があって結果が生じ、その結果がまた次の原因となるというように、連鎖的な順序を持って変化していきます。

具体例

  • 植物の成長過程: 種を蒔き(原因)、芽が出て、茎が伸び、葉が茂り、花が咲き、実がなる(過程)、そして枯れて種に戻る(結果)。段階的な成長の順序がある。(生物の成長)
  • 料理のレシピ: 材料を準備し、切って、炒めて、煮込むなど、レシピの手順に従って料理を作る。(作業の順序)
  • 学習のステップ: 基礎を学び、応用に進み、最終的に専門的な知識を習得する。段階的な学習の順序がある。(知識習得の順序)
  • プロジェクトの進行: 計画を立て、実行し、検証し、改善するというPDCAサイクル。(業務プロセスの順序)
  • 物語の展開: 起承転結のように、物語は導入、展開、クライマックス、結末という順序で進む。(物語の構成)
  • 時間の流れ: 過去、現在、未来と、時間は一方通行であり、逆戻りしない。(時間の一方向的な順序)

20.方(ほう)

物質に東西南北上下などの区分があることについて名付けたものです。

「方」とは、空間における位置や、方向を区別することです。

東西南北の四方、上下、前後、左右など、空間的な広がりの中に存在する様々な方向を指します。

これは、物質的な現象(色法)が、空間の中に場所を占め、位置関係を持つことを示す概念です。

具体例

  • 東西南北: 地図や方位磁針で示される、基本的な四方向。(基本的な空間方向)
  • 上下: 物体の上と下の位置関係、高さの概念。(垂直方向の区別)
  • 前後: 物体の前と後ろの位置関係、奥行きの概念。(前後方向の区別)
  • 左右: 物体の左と右の位置関係、横方向の区別。(左右方向の区別)
  • 部屋の四隅: 部屋の角、端といった、場所を特定する概念。(具体的な空間的位置)
  • 地図上の位置: 地図上の特定の地点を指し示す経度と緯度。(地理的な位置情報)
  • 宇宙空間の方向: 天体の方向を示す天球座標や銀河座標。(宇宙規模の方向)

21.時(じ)

物質と心の諸法に時間の制限や区分があることについて名付けたものです。

「時」とは、時間の流れにおける区切りや制限を指します。

過去、現在、未来という時間の流れ、年、月、日、時間、分、秒といった時間単位、瞬間、永遠といった時間的な長さなど、時間を区切り、測定し、認識するための様々な概念が含まれます。

物質的な現象、精神的な現象、いずれも時間の中で変化し、制約を受けることを示します。

具体例

  • 過去、現在、未来: 時間の基本的な区分、流れを表す概念。(時間軸の区分)
  • 年、月、日: 暦で用いられる時間の単位、季節や暦の区切り。(暦上の時間区分)
  • 時間、分、秒: 時計で用いられる時間の単位、日常生活で用いられる時間感覚。(日常生活の時間区分)
  • 瞬間: ごく短い時間、一瞬を表す概念。(短い時間の単位)
  • 永遠: 時間が無限に続くこと、終わりがないことを表す概念。(無限の時間)
  • 朝、昼、夜: 一日の時間帯を区切る概念、生活リズムの基準。(一日の時間区分)
  • 出来事の前後: 「過去の出来事」「現在の状況」「未来の予定」など、出来事を時間軸に沿って捉える表現。(出来事を時間で区切る)

22.数(すう)

物質と心の諸法に二つ、三つなどの数量があることについて名付けたものです。

「数」とは、現象を数量として捉える概念です。

一つ、二つ、多い、少ない、大きい、小さい、重い、軽いなど、量や程度を数値化したり、比較したりするための概念が含まれます。物質的な現象の個数や質量、精神的な現象の程度や頻度など、あらゆる現象は数量として把握することが可能です。

具体例

  • 個数: 「リンゴが二つある」「人が三人いる」「星が無数に輝く」など、物の数を数える表現。(具体的な数量)
  • 量: 「水が1リットルある」「重さが10キロある」「高さが3メートルある」など、物の量や大きさを表す表現。(物理的な量)
  • 程度: 「非常に嬉しい」「少し悲しい」「大変疲れた」「とても美しい」など、感情や状態の程度を表す表現。(抽象的な量)
  • 頻度: 「毎日運動する」「時々雨が降る」「まれに雪が降る」など、出来事の頻度を表す表現。(時間的な頻度)
  • 割合: 「半分にする」「3分の1を食べる」「全体の10%」など、全体に対する割合を表す表現。(割合の数量)
  • 順位: 「一番になる」「二番目に速い」「最下位」など、順序やランキングを表す表現。(順序による数量化)
  • 単位: 「100円」「5キログラム」「1時間」など、数量を表現するための単位。(単位を用いた数量化)

23.和合性(わごうしょう)

諸法が互いに矛盾しないことについて名付けたものです。

「和合性」とは、様々な現象(諸法)が、互いに矛盾したり、対立したりすることなく、調和し、協力し、共存する性質を指します。

世界は対立や矛盾だけでなく、調和と協調によっても成り立っています。

異なる要素が互いを尊重し、補完し合うことで、全体として安定し、機能を発揮する状態を表します。

具体例

  • オーケストラの演奏: 様々な楽器がそれぞれの音色を奏でながら、一つの音楽として調和する。(異なる要素の調和)
  • チームワーク: 異なる個性や能力を持つ人々が、共通の目標に向かって協力し、成果を上げる。(人々の協調性)
  • 生態系のバランス: 植物、動物、微生物など、様々な生物が互いに依存しあい、食物連鎖などを通して生態系を維持する。(自然界の調和)
  • 自動車の各部品: エンジン、タイヤ、ハンドルなど、異なる機能を持つ部品が連携することで、自動車として機能する。(機械における調和)
  • 家族の協力: 家族それぞれが役割分担し、助け合うことで、家庭が円満に維持される。(人間関係の調和)
  • 色の調和: 異なる色を組み合わせることで、美しい色彩が生まれる。(視覚的な調和)
  • 味の調和: 異なる食材や調味料を組み合わせることで、美味しい料理が生まれる。(味覚的な調和)

24.不和合(ふわごう)

諸法が互いに矛盾することについて名付けたものです。

「不和合」とは、「和合性」とは逆に、様々な現象(諸法)が、互いに矛盾し、対立し、相容れない性質を指す概念です。世界には調和だけでなく、対立や衝突も存在します。

異なる要素が互いに反発しあい、矛盾し合うことで、不安定さや混乱、対立を生み出す状態を表します。

具体例

  • 戦争: 国家や民族同士が互いに対立**し、争い、衝突する状態。(国家間の対立)
  • 喧嘩: 個人間で意見が衝突し、感情が対立し、争いになる状態。(人間関係の対立)
  • オイルと水: オイルと水は混ざり合わず、分離する。性質が相容れない例。(物質的な不和合)
  • 相反する感情: 「愛と憎しみ」「喜びと悲しみ」など、同時に両立しえない感情。(感情的な不和合)
  • 矛盾する意見: 「Aは正しい」と「Aは間違っている」のように、論理的に両立できない意見。(論理的な矛盾)
  • 相反する欲求: 「食べたい」けど「痩せたい」のように、両方を同時に満たすことができない欲求。(欲求の矛盾)
  • 自然災害: 地震、津波、台風など、人間の意思とは無関係に発生し、破壊や混乱をもたらす自然現象。(自然の力による不和合)

まとめ

これら24の不相應行法は、唯識思想における「五位百法」の中の一カテゴリーです。

物質(色法)でも心(心王・心所)ではありませんが、現象世界を理解するために必要な教えです。

これらは独立した実体として存在するのではなく、色法や心法の関係性や変化を説明するための概念となります。

  • URLをコピーしました!
目次