伝教大師最澄の提唱した「四宗一致」と「四宗兼学」の深い教え

四宗統一と四宗兼学

仏教には様々な宗派や教えがありますが、伝教大師は「四宗一致」としてそれぞれの教えを融和して教えられました。

今回は、「四宗一致」と、そこからの「四宗兼学」の深い教えを解説します。

四宗一致とは何か?

四宗一致とは、以下4つを根本的に一つに融和させた教えです。

  • 天台教観(円)
  • 真言密教(密)
  • 禅宗(禅)
  • 円頓菩薩戒(戒律)

なぜ融和させたのか、その理由は以下の記事を御覧ください。

まずは円教と禅の融和についてみていきます。

天台宗(円教)と禅宗は同じ真理、異なる表現方法

南北朝時代から室町時代に活躍した貞舜の書いた『七帖見聞』には、伝灯録を引て深い記述があります。

達磨大師の教えと天台智者大師の教えは、表現方法は違えども、本質的には同じものだと説明されています。

達磨大師の教外別伝の旨は、正に是れ智者禅師の 一心三観なり。智者禅師の 一心三観は、正に是達磨大師の教外別伝なり。而も同異あり。智者は教を以て之を示し、達磨は禅を以て之を示す、其理不二なり。

引用:『七帖見聞』

達磨大師が伝える「教外別伝」という考え方は、智者禅師の「一心三観」の教えに通じています。智者禅師の「一心三観」という教えもまた、達磨大師の「教外別伝」と本質的に同じです。ただし、少し違いもあります。智者禅師は仏教の教えを用いてこの考え方を説明しますが、達磨大師は禅の実践を通じてこの考えを示します。しかし、その根本的な意味は同じです。

達磨大師の教え(教外別伝)は、

  • 経典や文字に頼らず、直接的な悟りの体験を重視
  • 座禅などの実践を通じて真理を会得する方法

です。

智者禅師の教え(一心三観)は

  • 経典や教えを通じて、心のあり方を体系的に説明
  • 「空・仮・中」という三つの観点から真理を理解する方法

ということ。

つまり、両者は目指すところ(真理)は全く同じですが、ただし、そこに至る方法が異なるということなのです。

どのように異なるかというと、

  • 達磨大師は実践(禅)を通じて
  • 智者禅師は教えを通じて

ということ。

例えるなら、同じ山頂を目指すのに、違う登山道を通っているようなものです。道は違えども、到達点は同じなのです。

わかりやすい譬え話

「山家学則」では、とても分かりやすい譬えを使って説明しています。

達磨大師の心印を直指給へるは、クジラ尺の裏を差出して、此の一尺を見よと云へるが如し。判教の寸尺を論せず 驀直に単提す。天台大師の心因を指示し給ふは、クジラ尺の表を差出して、此の一尺を見よと宣給ふが如し。教に即して禅を示し、寸尺を分ち給へども、其の示さるる体は、彼れ此れ一印にして原より別なし。

引用:『山家学則上十』

意訳:達磨大師と天台大師の教えの違いは、同じ物差しの表と裏を見せる時の違いのようなものです。達磨大師は物差しの裏面を差し出して「これを見なさい」と言うように、細かい理論や説明を省いて、真理を直接的に示します。一方、天台大師は物差しの表面を差し出して「これを見なさい」と教えるように、経典や教えに基づいて丁寧に真理を説明します。

しかし、これは同じ一つの物差しの異なる面を見せているだけのことです。表現方法は違っても、二人の大師が示そうとしている真理は本質的に同じものなのです。まるで、同じ山に登るための異なる道があるように、どちらの教えも同じ真理への道筋を示しているのです。教え方は違えども、その根底にある本質は変わらないということを、この譬えは巧みに表現しています。

物差しの表と裏のように、達磨大師と天台大師の教えは、同じものの異なる面を示しているというのです。どちらも同じ真理を指し示していながら、その示し方が違うだけなのです。

真言密教との調和

さらに、仏教の実践についても深い理解が必要です。

例えば、手で印を結び(印相)、お経を唱える(真言)という行為を通じて、本当の仏の心を理解し、自分の心が仏と一つであることを深く認識することができます。これは禅の実践とも言えるものです。

つまり、戒律の実践(戒)と禅の修行は、大日如来の教え(遮那)や天台宗の瞑想実践(止観)のどちらか一方に無理に分類することはできません。しかし同時に、これらの実践は必ずどちらかの教えの中に含まれているのです。

そして、大日如来の教え(遮那)と天台宗の実践(止観)が本質的に一つであるということは、すなわち四つの教え(天台宗、真言密教、禅宗、戒律)が根本的に一致しているということに帰結するのです。

伝教大師が上表文に

真言と止観と、其の旨一なるが故に一山に於て双べて両宗を弘む

引用:『天台真言二宗同異章』

と言われたと伝わっています。

また弘仁3年(812年)に、伝教大師が空海に宛てた手紙の中で重要な考えが述べられています。

遮那の宗と天台と融通し(中略)………先帝の御願も、亦、一乗の旨と真言と異なることなし。

意訳:大日如来の教え(真言密教の教え)と天台の教えは、互いに通じ合う深いつながりがある(中略)桓武天皇が願われた法華経の教え(一乗)と、真言密教の教えの間には、本質的な違いがない。

つまり、表面的には異なって見える天台宗の教えと真言密教の教えも、その根本では同じ真理を説いているという深い洞察を、最澄は示していたのです。

ここから天台宗では比叡山で四宗兼学の宗派として、日本中に拡大していきます。

四宗兼学とは

天台宗では伝教大師の「四宗一致」の教えをもとに、四宗兼学の宗派です。

四宗兼学とは、円(天台の教え)、密教、禅、戒律などの教えを学び、修行を行うということです。

いまでは念仏の教えも学びます。

しかしこれは、四宗伝弘ではありません。つまり四宗を伝えたわけではなく、伝教大師は唯一真実の教は「法華経」であるとし、法華経を根本聖典として、法華一乗の教えを伝えているのです。

まとめ

四宗一致の考え方は、一見異なって見える仏教の教えが、実は同じ真理を異なる方法で表現していることを教えています。

異なる教えの間に対立を見るのではなく、その根底にある共通の真理を見出そうとs

四宗兼学として様々な教えを学ぶのですが、伝教大師が伝えた教えは「法華一乗」の教え一つであることを、忘れてはなりません。

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