心所は、かならず心王(八識)に従う心で、心所には、51の心的要素があります。
これらは「遍行」「別境」「善」「煩悩」「随煩悩」「不定」の6つに分類されます。
- 遍行:作意、触、受、想、思の5つ
- 別境:欲、勝解(正しい理解)、念(注意)、定(集中)、慧(智慧)の5つ
- 善:信(信頼)、勤(精進)、慚(羞恥心を感じる心)、愧(後悔する心)、無貪(貪欲を持たない心)、無瞋(怒りを持たない心)、無痴(無知を持たない心)、輕安(心の軽さ)、不放逸(怠らない心)、行捨(執着を捨てる心)、不害(他を害さない心)の11つ
- 煩悩:貪(欲望)、嗔(怒り)、痴(無知)、慢(傲慢)、疑(疑い)、悪見(間違った見解)の6つ
- 隨煩悩:忿(憤り)、覆(隠す)、悩(苦しむ)、嫉(妬む)、慳(ケチ)、誑(欺く)、恪(精勤)、害(害する)、恨(恨む)、愉(楽しむ)、無愧(後悔しない)、無慚(羞恥心を感じない)、不信(信じない)、懈怠(怠ける)、放逸(自制しない)、情沈(情に沈む)、掉擧(浮ついた心)、失念(忘れる)、不正知(正しく知らない)、散乱(集中できない)の20つ。
- 不定:尋(探る)、伺(うかがう)、悪作(悪事を働く)、睡眠(眠る)の4つ。
そのうち1の「偏行心所」について詳しくみてきましょう。
偏行心所とは
「遍行」とは周遍行起(一切心に周遍して起る)の意味で、「あらゆる場面で必ず働く」という意味です。心が働くときには、必ず伴って現れる基本的な心の働きのことを指します。
主に5つの要素があります。
1:作為
心が客観的な対象に向かって活動を起こす力をいう。他の心の要素が比較的鈍感であることに対して、それを刺激して活動を促す働きを持っています。
2:触
感触としての意味で、初めて客観的な対象に心が接触する時のこと。認識の最初の段階。
3:受
接触した後、苦楽などの感情を受け取り、識別する心の活動。
三受五受(「苦」「楽」「捨」)
受にはさらに、「三受五受」という概念があります。
これには「苦」「楽」「捨」の三つの基本的な感情のことです。
「苦」と「楽」はそれぞれさらに細かく二つに分けられ、有分別のものと無分別のものに分けられます。
前五識による区別が伴うものを「無分別」といいます。
第六識(意識)による判断区別の伴うものを「有分別」といいます。
そして有分別の苦を「優」といい、有分別の楽を「喜」といい、優と喜は、精神的な悲しみや苦しみ、喜びや楽しみをいいます。
そして無分別の苦を「苦」といい、無分別の楽を「楽」といい、苦と楽は、肉体的な悲しみや苦しい、喜びや楽しみをいいます。
さらに「捨」を加えた5つの感情が「五受」と呼ばれます。「捨」は特定の感情でもない状態を指し、他の苦楽とは異なる分類となります。
感受作用(受)┌─┴─┐
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苦 楽 捨
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憂 苦 喜 楽 捨
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有 無 有 無 無
有:有分別:意識に従ったもの、判断、思慮できる
無:無分別:身体にしたがったもの、判断思慮がない
4:想
「想」は、対象の表象、すなわち物事の形やサイズ、言語の音の高低など、外からの刺激を心がどのように捉えて像として形成するかを意味します。
これにはただ物事を映し出すだけでなく、それを捉えた際に心がどのように動かされるか(心の動きや反応)も含まれます。
想は心とその働きを掌握し、外界の象を内界に写し取る作用を持っています。
5:思
「思」は、行動や決断の背後にある動機や意図を意味します。
これは善、悪、中立(無記)といった道徳的価値に基づいて行動を促す心の働きです。
例えば、思いが善であれば、他の心や心所が善良な行動を促すよう動かされ、悪であれば悪い方向に動かされます。
例えば馬と御者の関係にあたります。
御者(思)が意図する方向に馬(他の心や心所)が向かうように、「思」は他の心の働きの性質を決定づけているのです。