運命を探求した13人の西洋の哲学者たち

今回は「運命とは何か」という人類永遠の問いを考えるうえで、参考になる西洋哲学史に名を残す偉大な思想家たちを紹介します。

古代ギリシャ時代(紀元前5世紀〜4世紀)

「哲学」という言葉は、ギリシャ語の「フィロソフィー」に由来し、「知(ソフィー)を愛する(フィロ)」という意味があります。

「真実を知りたい」という飽くなき思いのもと、真理を探求することを哲学といいます。

その哲学に、命がけの探求をしたのが、ソクラテスでした。

ソクラテス(紀元前470頃〜399)‐真理の探究に命を懸けた男

古代ギリシャを代表する哲学者。「汝自身を知れ」という言葉で知られ、自己の魂こそ、もっとも知らな帰ればならない、と主張し、「よく生きる」ことの意味を探究し続けました。

また相手かまわず討論をふっかけては、鋭い問答で、相手の無知を暴き続けてました。

「無知の知」について自覚させる活動をつづける中で、名誉と権威を傷つけられたと感じる市民が現れ、逆恨みの裁判をしていると、ついには死刑判決を受けてしまいました。

ソクラテスは著書を残していませんが、ソクラテスの思想は、弟子のプラトンが書き残しています。

プラトン(紀元前427頃〜347)師の思想を永遠に残す

プラトンは、師ソクラテスの思想を30もの「対話篇」として書き残しました。

プラトンは単に師の言葉を記録しただけではありません。対話篇という形式を通じて、ソクラテスの思考法そのものを生き生きと伝えることに成功したのです。

プラトンはまた、アテネに「アカデメイア」という学園を設立し、そこで多くの若者たちを教育しました。

現代の「アカデミー」という言葉は、このプラトンの学園に由来しています。

その膨大な著作と教育活動を通じて、プラトンは西洋哲学の礎を築き、「人類が生んだ最大の哲学者」と称されるまでになったのです。

中世からの大転換

中世ヨーロッパでは、『聖書』が絶対的な権威を持ち、哲学はキリスト教の教えを理解するための補助的な道具とされていました。「哲学は神学の侍女」という言葉が、当時の状況をよく表しています。

しかし、17世紀に入ると、この状況が大きく変わり始めます。

デカルト (1596-1650) 神の存在証明

フランスに現れたデカルトは、それまでの常識を根底から覆す試みを始めます。

彼は「すべてを疑うことから始めよう」と宣言し、古い書物や伝統的な教えに頼らず、自分の理性だけを頼りに真理を探究しようとしました。

有名な「我思う、ゆえに我あり」(コギト・エルゴ・スム)という言葉は、この探究から生まれました。確かに存在するのは、今、考えている自分だけ。

この直観から、デカルトは新しい哲学を組み立てていき、理性をもって神の存在証明を行おうとします。

神の存在証明

デカルトの神の存在証明は、哲学史上でも特に興味深い試みの一つです。彼は『省察』という著作の中で、純粋に理性的な思考だけを用いて、神の存在を証明しようと挑戦しました。

この試みを理解するには、当時の時代背景を知る必要があります。17世紀のヨーロッパでは、公然と無神論を主張することは極めて危険でした。ガリレオが宗教裁判にかけられたように、教会の教えに反する思想を唱えることは、時として命の危険すらありました。

そんな中でデカルトは、伝統的な信仰や教会の権威に頼らず、純粋に理性的な思考のみで神の存在を証明しようとしたのです。彼は「我思う、ゆえに我あり」という有名な命題から出発し、段階的な論理を積み重ねることで、神の存在を導き出そうとしました。

しかし、デカルト自身が本当に神を信じていたかどうかについては、研究者の間でも意見が分かれています。

彼の神の存在証明は、純粋な知的探究だったのでしょうか?それとも当時の社会的制約の中で、自身の哲学を展開するための戦略的な選択だったのでしょうか?

パスカル (1623-1662) 理性と信仰の間で

デカルトより一世代後に登場したパスカルは、優れた数学者であり物理学者でもありました。17歳で射影幾何学の基礎定理を発見し、世界初の機械式計算機も発明しています。

しかし、パスカルはデカルトの思想に対して強い違和感を抱きました。デカルトは神の存在を理性的に証明しようとしましたが、パスカルにとって、それは本末転倒でした。

神を理性で証明しようとするデカルトは、神を自分の哲学の都合のいい道具として利用しているだけだ

パスカルのこの批判は、今日でも重要な問題提起として受け止められています。

スピノザ (1632-1677) 禁書となった真理の探究

さらに新しい世代のスピノザは、ポルトガル系ユダヤ人の家庭にオランダで生まれました。彼はデカルトの思想を批判的に継承しながら、さらに大胆な考えを展開します。

スピノザの主著『エチカ』は、数学の証明のような厳密な論理で、神と自然と人間の関係を解き明かそうとした大作です。

しかし、その革新的な考えは、当時の宗教界から激しい反発を招き、長年にわたって禁書とされました。

ジョン・ロック(1632-1704)‐経験論という革命

それまでの哲学者たちは、人間は生まれながらにして何らかの知識や真理を理解する能力(理性)を持っていると考えていました。

しかし、イギリスの哲学者ジョン・ロックは、この考えに真っ向から異を唱えます。

ロックによれば、人間の心は生まれた時には「白紙(タブラ・ラサ)」の状態。つまり、何も書かれていない真っ白な紙のようなものだというのです。では、私たちの知識はどこからくるのでしょうか?

ロックの答えは明快でした:「すべての知識は経験から生まれる」

私たちが物を見たり、音を聞いたり、何かを触ったりする。そうした日々の経験の積み重ねが、私たちの知識を形作っていくというのです。

この考えは、当時の知識人に大きな衝撃を与えました。

ヒューム(1711-1776)- 経験論の究極形

ロックの考えをさらに推し進めたのが、スコットランドの哲学者デイビッド・ヒュームです。ヒュームは「因果関係」という、私たちが当たり前のように信じている概念にまで疑いの目を向けました。

例えば、ビリヤードの球が別の球にぶつかって、その球が動き出す。私たちは「ぶつかったから動いた」と考えます。でも、それは本当に必然的な関係なのでしょうか?

ヒュームの徹底した懐疑は、後のカントに大きな影響を与えることになります。

カント(1724-1804)- 対立する思想の統合者

イマヌエル・カントは、それまでの哲学界を二分していた「理性派」と「経験派」の対立を、見事に解決しました。

カントによれば、知識は「理性」と「経験」の両方が必要なのです。経験は私たちに生の材料を提供し、理性はその材料を整理し理解可能な形に組み立てる—この両者が協力してはじめて、私たちの知識が成り立つというわけです。

例えるなら、理性は「メガネ」のようなもの。メガネがなければ世界はぼやけて見えますが、かといってメガネだけでは何も見えません。実際の光(経験)が必要なのです。

ヘーゲル (1770-1831) – 哲学の完成者を自称した男

19世紀初頭のドイツで、一人の哲学者が大胆な宣言をしました。

ゲオルグ・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル—彼は、自分の哲学体系によって「哲学の歴史は完結した」と主張したのです。

一見すると傲慢に聞こえるこの宣言には、それなりの根拠がありました。

ヘーゲルは、それまでの哲学史上のあらゆる対立を、より高次の視点で統合することに成功したと考えたのです。

実際、現代でも多くの研究者が「近代哲学の完成者」としてヘーゲルを評価しています。

ショーペンハウアー (1788-1860) – 孤高の反逆者

ベルリン大学でのヘーゲルの講義は、常に満員御礼の人気ぶりでした。他の教授たちは、学生が集まらないことを恐れて、ヘーゲルの講義と時間が重ならないよう気を配っていたほどです。

アルトゥル・ショーペンハウアーは意図的にヘーゲルと同じ時間に講義を設定しました。

結果は惨憺たるものでしたが、この挑戦的な姿勢は、彼の哲学の本質を象徴していると言えるでしょう。

ショーペンハウアーの主著『意志と表象としての世界』は、世界の本質を「盲目的な意志」と見る斬新な視点を提示し、後の哲学者たちに大きな影響を与えることになります。

ニーチェ (1844-1900) – 「神の死」を告げた哲学者

ショーペンハウアーの思想に深く影響を受けたニーチェは、さらに過激な宣言を行います。

「神は死んだ」

この衝撃的な言葉は、近代ヨーロッパの価値観の根本的な転換を告げるものでした。

サルトル (1905-1980) – 実存主義の旗手

20世紀に入り、ニーチェの問題提起を受け継いだのが、フランスの哲学者ジャン=ポール・サルトルでした。サルトルは「神は存在しない」という立場から、人間の絶対的な自由と責任を説きました。

神ではなく、私たち自身の選択と行動が、自分自身を作り上げていく。

この考えは「実存主義」として知られ、20世紀の思想界に大きな影響を与えました。

サルトルは哲学者であると同時に、優れた小説家・劇作家でもありました。1964年にはノーベル文学賞を授与されましたが、「作家は賞を受けることで制度の一部となってはならない」として辞退しています。この行動も、彼の思想の実践と言えるでしょう。

運命はどのようにして決まるのか

過去に様々な思想家たちが、運命とはどのようにして決まるのか、ということを考え抜いてきました。

では、仏教ではどのように教えるのか。

これらの方々の思想を参考にしつつ、引き続き学んでいただければと思います。

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