心にも潜む「随煩悩」とは

随煩悩

今回は、20種類の「随煩悩」について解説します。

実生活の中でどのような形であらわれるのでしょうか。

心所は、かならず心王(八識)に従う心で、心所には、51の心的要素があります。

心所の全体像は、以下の記事にあります。

1. 怒りのグループ

①忿(ふん):「激しい怒り」

突発的に湧き上がる激しい怒りです。

例: 満員電車で足を踏まれて、思わず「痛い!何すんだよ!」と怒鳴ってしまう。ちょっとしたことでカッとなって、家族に八つ当たりしてしまう。

恨(こん):「恨みつらみ」

過去の怒りを引きずり、相手への恨みを持ち続けることです。

例: 昔の恋人にフラれたことをいつまでも根に持って、新しい恋人ができても素直に喜べない。学生時代のいじめをずっと忘れられず、同窓会にも参加できない。

③悩(のう):「悶々とする」

過去の怒りや恨みを思い返し、深く苦悩する心の働きです。

例: 仕事でミスをして上司に叱責されたことが頭から離れず、夜も眠れない。過去の失敗を何度も思い出しては、自己嫌悪に陥ってしまう。

現代社会はストレスフルで、 些細なことでイライラしたり、過去の出来事に囚われて苦しんだりすることは、誰にでもあります。

2. 自己保身のグループ

覆(ふく):「隠蔽」

自分の名誉や利益を守るために、過ちや罪を隠そうとする心の働きです。

例: テストでカンニングをしたことを先生に隠す。仕事のミスを隠して、同僚に責任を押し付ける。SNSで「リア充」を装い、本当の自分を隠す。

誑(おう):「騙す」

利益を得るために、嘘をついたり、人を騙したりすることです。

例: 高額な商品を「絶対に儲かる」と言って売りつけるマルチ商法。経歴を詐称して、就職活動を行う。

⑥諂(てん):「媚びへつらう」

相手に気に入られようとして、本心とは異なる態度で媚び諂うことです。

例: 上司に気に入られようと、思ってもいないお世辞を言う。権力者にすり寄り、自分の利益を得ようとする。

自分をよく見せたい、得をしたい… そんな気持ちから、つい嘘をついたり、ごまかしたりしてしまう心です。

3. 自惚れと他人への害のグループ:

⑦憍(きょう):「自惚れ」

自分の得意な分野において、自惚れて傲慢になることです。

例: 自分の学歴や容姿に過剰な自信を持ち、他人を見下す。SNSで自慢話ばかりする。

⑧害(がい):「攻撃」

他人を傷つけたり、攻撃したりする心の働きです。

例: ネット掲示板で匿名で他人を誹謗中傷する。気に入らない人を仲間外れにする。

⑨嫉(しつ):「嫉妬」

他人の成功や幸福に対して、妬みや嫉妬の感情を抱くことです。

例: 友人の昇進を知って、素直に喜べずモヤモヤする。恋人が他の異性と仲良くしているのを見て、強い嫉妬心を抱く。

SNSの普及で、他人と自分を比較して、落ち込んだり、妬んだりすることが増えているかもしれませんね。

4. その他のグループ:

⑩慳(けん):「ケチ」

お金や知識などを出し惜しみ、与えることを拒むことです。

例: 割り勘の時に、1円単位まで細かく計算する。自分が持っている知識やノウハウを他人に教えたがらない。

⑪無慚(むざん):「恥知らず(内面)」

道徳や倫理に反することをしても、恥じらいを感じないことです。

例: 自分が悪いことをしても、全く反省しない。罪悪感を感じずに、平気で嘘をつく。

⑫無愧(むき):「恥知らず(外面)」

自分の過ちを反省せず、良心の呵責を感じないことです。

例: 公共の場でゴミをポイ捨てする。電車内で大声で電話する。

⑬不信(ふしん):「疑い深い」

正しい教えや道理を信じようとしないことです。

例: 宗教や占いを全く信じない。人の善意を素直に受け取れず、裏があるのではないかと疑ってしまう。

⑭懈怠(けたい):「怠け」

努力することを怠け、物事を先延ばしにする心の働きです。

例: ダイエットを決意したのに、三日坊主で終わる。やるべき仕事があるのに、つい先延ばしにしてしまう。

⑮放逸(ほういつ):「自堕落」

ルールや規則を守らず、自分の欲望のままに好き勝手に振る舞うことです。

例: ギャンブルにハマって借金を重ねる。毎日お酒を飲み過ぎて、健康を害する。

⑯惛沈(こんじん):「心が沈む」

心が沈み込み、ぼんやりとして、何もやる気が起きない状態です。

例: 大事な会議中に、つい居眠りをしてしまう。話を聞いているようで、上の空で全く内容が入ってこない。

⑰掉挙(じょうこ):「心が浮つく」

心が落ち着かず、常にソワソワと浮ついた状態です。

例: 大事なプレゼンの前に、緊張して落ち着きがなくなる。貧乏ゆすりがやめられない。

失念(しつねん):「忘れる」

物事をすぐに忘れてしまうことです。これは「癡」と「念」(記憶)が合わさった状態です。

例: 大事な約束を忘れてしまう。鍵や財布をよくなくす。

不正知(ふしょうち):「誤解」

物事を正しく理解できず、誤った認識をしてしまうことです。これは「慧」(知恵)と「癡」が合わさった状態です。

例: デマ情報を真に受けて、拡散してしまう。相手の言葉を勘違いして、怒らせてしまう。

⑳散乱(さんらん):「心が散る」

心が散漫になり、集中できない状態です。様々な外的刺激に心が奪われ、一つのことに集中できないのです。

例: 勉強しようと思っても、ついスマホを見てしまう。複数のことを同時にやろうとして、結局どれも中途半端に終わる。

現代人は情報過多で、集中力を保つのが難しい時代です。 ついつい、スマホに手が伸びてしまったり、他のことが気になったりする心です。

現れ方の分類

これら20の随煩悩は、その現れ方によって、さらに細かく分類されます。

  • 小随惑(しょうずいわく): 「忿」「恨」「悩」「覆」「誑」「諂」「憍」「害」「嫉」「慳」の10種類は、それぞれ単独で現れることが多く、同時に起こることは少ないため、小随惑と呼ばれます。
  • 中随惑(ちゅうずいわく): 「無慚」「無愧」の2種類は、あらゆる不善な心と同時に起こるため、中随惑と呼ばれます。
  • 大随惑(だいずいわく): 「不信」「懈怠」「放逸」「昏沈」「掉挙」「失念」「不正知」「散乱」の8種類は、あらゆる煩悩に汚染された心と同時に起こるため、大随惑と呼ばれます。

実在するかどうかの分類

さらに、これらの随煩悩は、実在するかどうかという点でも区別されます。

  • 仮法(けほう): 「忿」「恨」「悩」「覆」「誑」「諂」「憍」「害」「嫉」「慳」「放逸」「失念」「不正知」の13種類は、根本煩悩の現れ方の一面に名付けられたものであり、実体を持たないものとされます。
  • 実法(じっぽう): 「無慚」「無愧」「不信」「懈怠」「昏沈」「掉挙」「散乱」の7種類は、根本煩悩とは別に、実体を持つものとされます。

このように、20の随煩悩は、私たちの心を複雑に揺れ動かす様々な感情や思考のパターンを詳細に分析したものです。

これらを理解することで、自分自身の心の動きを客観的に観察し、より良い心の状態を保つためのヒントを得られます。

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